東京高等裁判所 平成11年(ラ)57号 決定 1999年1月29日
抗告人
東日本重機株式会社
右代表者代表取締役
又來渉
右代理人弁護士
中村築守
相手方
株式会社アトリウム
右代表者代表取締役
吉田道生
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由
別紙「執行抗告状」に記載のとおりである。
二 抗告理由に対する当裁判所の判断
本件記録によれば、本件土地(原決定別紙物件目録記載の土地)について、平成三年三月二六日に、原因を同月二五日設定、債務者を抗告人、根抵当権者を目黒信用金庫とする根抵当権設定登記がされていること、右被担保債務は、抗告人の債務不履行により、遅くとも平成九年五月六日までには履行遅滞になっていることが認められる。
ところで、被担保債務者の債務不履行により、その引当となった不動産が売却され、所有者が所有権及び占有を失うことになるのに、当の債務者が賃借人として保護されるというのでは、著しく衡平・信義に反すると考えられることから、所有者のみならず被担保債務者も引渡命令の対象となると解するのが相当である。そして、本件のように、基本事件の申立抵当権者の抵当権以外の被担保債務者が賃借権を主張する場合においてもこの理は同様であり、当該賃借人(被担保債務者)が自己の債務について債務不履行の状態にあるときは、賃借人はいつでも自己の設定した抵当権に基づく実行申立を受ける可能性があるのであって、たまたま他の抵当権者の申立に基づく実行手続で進行しているとしても、消除主義により当該賃借人を被担保債務者とする抵当権についても換価が強制されることになるのであるから、そのような状況で、賃借人自らが担保として利用して金融の利益を得た不動産の担保価値の低下を招来するような賃借権を主張することは、信義則に反し許されないと解される。
したがって、仮に抗告人主張の賃借権が認められるとしても、抗告人は引渡命令の対象になるというべきである。
なお、相手方が抗告人を被告として本件土地上の建物の明渡しを求める訴訟を提起しているとしても、本件引渡命令の申立が許されないことになるものではない。
三 結論
よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官西田美昭 裁判官筏津順子)
別紙執行抗告状<省略>